今日の論理学:リンデンバウムの補助定理の証明
これまでの流れのおさらい
- 公理系APLの完全性を証明したい
- ヘンキンの定理を証明する必要がある
- 【補助定理44-1 リンデンバウムの補助定理(Lindenbaum's lemma)】
- 【補助定理44-2 極大無矛盾集合の充足可能性補助定理】→これは次回やる
- ヘンキンの定理を証明する必要がある
今日はリンデンバウムの補助定理の証明をなぞる
【補助定理44-1 リンデンバウムの補助定理(Lindenbaum's lemma)】
Γが構文論的に無矛盾な式の集合である時、Γを部分集合とするような極大無矛盾集合Γ*が少なくとも1つ存在する
- 作者: 戸田山和久
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
- 発売日: 2000/10/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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証明概略
- 任意の無矛盾な式集合Γのスーパーセットになる極大無矛盾集合Γ*をつくる方法を示す
- その手順で作ったΓ*が極大無矛盾集合になっていることを示す
ΓをΓ*に拡張する方法
- 任意の論理式の集合は枚挙可能である。
- 自然数の番号をつけて一列に並べることができる
- 全ての論理式を枚挙した列が与えられているとする
- 無矛盾な
Γ
に対して、矛盾しないならΓ*
の要素として付け加えるという操作を続ける。
手順
式集合の系列Γ0,Γ1,...をつくる
- (1)Γ0 = Γ
- (2) Aiを枚挙した論理式のi番目の要素とする
- Γ
i∪{Ai}が無矛盾の場合 - Γi+i = Γ
i∪{Ai}
- Γi+i = Γ
- Γ
i∪{Ai}が無矛盾で無い場合 - Γi+i = Γ
i
- Γi+i = Γ
- Γ
- (3) 上記手順を無限回繰り返した集合
Γ*
= ∪i=0∞Γiを極大無矛盾集合とする。
上記の操作で作成した式集合Γ*
は以下の要素を満たしている。
- 系列Γ0,Γ1...に現れる式を全て含む
Γ∈Γ*
である
Γ*
が極大無矛盾集合であることの証明
Γ*
が極大無矛盾集合であることを証明するためには以下の2つの証明が必要である
- (1)構文論的に無矛盾であることの証明
- (2)極大であることの証明
(1)構文論的に無矛盾であることの証明
- 前半:数学的帰納法を用いて、Γ0,Γ1...に現れる任意のΓnが構文論的に無矛盾であることを示す。
- 後半:Γ0,Γ1...が構文論的に無矛盾である時,
Γ*
= ∪i=0∞Γiも無矛盾であることを示す
前半
前半:数学的帰納法を用いて、Γ0,Γ1...に現れる任意のΓnが構文論的に無矛盾であることを示す。
[Basis] Γ0は無矛盾と仮定したΓであるため(Γ0=Γ)無矛盾である
- [Induction step] Γk+1より前にある全ての集合が無矛盾であると仮定する
- この時、Γk+1も無矛盾であることを示す。
- 定義よりΓk+1は以下のどちらかとなる
- 1.Γ
k∪{Ak} - 2.Γ
k
- 1.Γ
- Akを加えても矛盾しない場合のみΓk+1は前者になるので、1は無矛盾である。
- 2は帰納法の仮定により無矛盾である■
- 定義よりΓk+1は以下のどちらかとなる
- この時、Γk+1も無矛盾であることを示す。
後半
- 後半:Γ0,Γ1...が構文論的に無矛盾である時,
Γ*
= ∪i=0∞Γiも無矛盾であることを示す - 次の補助定理を使う
【補助定理44-1】論理式の集合Γが構文論的に矛盾している時、Γの何らかの有限部分集合が構文論的に矛盾している(証明略)
Γ*
が矛盾している時Γ*
に矛盾している部分集合Γ'
が存在するΓ'
野中の最も大きい番号の式をAjとするΓ'
に含まれる式はΓj+1に含まれている- Γj+1は矛盾している
Γ'
を含むため、これもまた矛盾している- これはΓ0,Γ1...に現れる任意のΓnが構文論的に無矛盾という前半と矛盾する■
- Γj+1は矛盾している
note:本書中では「前半と矛盾する」、という書き方ではなく「仮定に反する」と書かれているが、その仮定はどこにもないので、「前半」の間違いだと思う。
これは、系列Γ0,Γ1,...のあらゆる要素が無矛盾であるという仮定に反する。■(p271)
(2)極大であることの証明
背理法を使う。
- 背理法の仮定:
Γ*
が無矛盾だが極大ではないとする- 上記の仮定で
Γ*
∪{Aj}を無矛盾とするAj∉Γ*
が存在する- "矛盾した集合を含む集合は全て矛盾している"
- 上記の対偶は"無矛盾な集合の部分集合は全て無矛盾である"
- Γj∪{Aj}は
Γ*
∪{Aj}の部分集合であるΓ*
∪{Aj}が無矛盾ならばΓj∪{Aj}も無矛盾- とすると
Γ*
の構成ルールよりΓj+1=Γj∪{AJ} - Aj∈Γj+1よりAj∈
Γ*
- これは仮定に反するので背理法の仮定は矛盾
- よって
Γ*
∪{Aj}が無矛盾かつAj∉Γ*
となるAjは存在しない - つまり
Γ*
は付け加えても無矛盾性を保つ式は全て含んでいる=Γ*
は極大■
- とすると
- "矛盾した集合を含む集合は全て矛盾している"
- 上記の仮定で
次回
次回は【補助定理44-2 極大無矛盾集合の充足可能性補助定理】を証明します。
これにより
- ヘンキンの定理が証明される
- 公理系APLの完全性が証明される
というドミノ倒し的なことが起こるはず。そして公理系を証明すると、この本の古典論理学パートはおしまいです。